母体と赤ちゃんの安全のために帝王切開が選択されることがあります。帝王切開について「実際にどのような後遺症があるのだろう」「後遺症がみられた場合にどうしたら良いのだろう」と不安を抱えている方もいるでしょう。
そこで、この記事では、帝王切開の後遺症と合併症を詳しく解説します。本記事を読むことで、後遺症の症状やケアの方法などを詳しく知ることができます。ぜひ、参考にしてください。
帝王切開の後遺症7つ
帝王切開後にみられる後遺症は、以下の7つです。
- 傷あと
- 切開した部分の炎症
- 手術した部位の癒着
- 手足の痺れ
- 頭痛
- 重い生理痛・ズキズキする下腹部痛
- 不正出血や月経日数の超過
それぞれ詳しく解説します。
傷あと
帝王切開は開腹して赤ちゃんを取り出す手術のため、切開部分に傷あとが残ります。傷あとが残る原因として、体質と物理的刺激の2つが挙げられ、物理的刺激は皮膚が引っ張られる伸展刺激のほか、衣類や下着の摩擦・紫外線・傷あとテープを剥がすときの刺激などが該当します。
体質による傷あとのケアや予防をするのは難しいですが、物理的刺激によるものは目立たなくなる可能性が高いため、できる限りケアするようにしましょう。
帝王切開は切開する方向によっても、傷あとの大きさや目立ちやすさが異なります。帝王切開はお臍の下から縦にメスを入れる縦切開と、下腹部にメスを入れる横切開の2種類あり、帝王切開歴の有無や母体と胎児の状態などにより、切開をする方向が決まります。
それぞれの切開方法の特徴は、以下のとおりです。
切開方法 | 特徴 | 傷あとの大きさ |
横切開 | ・切開するのは下着に隠れる部分のため傷口が目立たない ・腹壁や内臓が癒着する可能性がある ・2回目以降の帝王切開時に縦切開となる可能性がある | 10cmほど |
縦切開 | ・傷口が目立ちやすい ・出血量が少ない ・腹壁などの癒着がみられにくい | 4cm〜10cmほど |
縦切開の方が傷あとが目立ちやすいですが、横切開の方が下着との摩擦が起こりやすいため注意しましょう。
傷あとを目立たなくするためには、生後3ヶ月〜6ヶ月目までは傷あとテープを活用する方法のほか、傷あと部分に下着やボトムスが当たらないようにする・かゆみがあっても掻かないようにすることが重要です。6ヶ月目以降は、乾燥によるかゆみを防ぐために、しっかりと保湿をしましょう。
また、傷あとはケロイドや肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)になる可能性があります。ケロイドは傷口だけではなく、健常な皮膚まで盛り上がってしまう状態、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん傷を修復する細胞が通常よりも多く産生され、傷口が赤く盛り上がった状態を指します。
産後1年ほどケアをしても傷あとが改善しない場合は、形成外科や皮膚科などの医師に相談してみましょう。
切開した部分の炎症
帝王切開の後遺症として、切開した部分が炎症し、痛みやかゆみ・赤みを生じる方がいます。痛みのピークは術後3日ほどです。麻酔が切れた後に傷口の痛みと後陣痛が相まって強い痛みを感じる方が多くいますが、徐々に落ち着いていきます。
しかし、術後も痛みが生じる方も多く見受けられます。原因としては、切開部位の筋肉組織が修復できていないことや血行不良・筋肉が伸展しにくいことが考えられるため、できる限り動いて血行を促進させることが重要です。
かゆみはバリア機能の低下や血流の促進、乾燥により起こります。かゆみが強い場合は、皮膚科の医師に相談をして薬を処方してもらうと良いでしょう。赤みについては傷あとと同様に、傷あとテープを活用したり、衣類の摩擦を防いだりしましょう。
手術した部位の癒着
帝王切開後の後遺症として、子宮壁の縫合部位と腹壁の癒着が挙げられます。私たちの体には、傷を治す力が生理的に備わっていますが、本来であればくっつかない臓器や組織同士がくっついてしまうことがあり、それを癒着といいます。
癒着をした場合には、以下の合併症を生じる可能性があるため、異常を感じたら医療機関を受診しましょう。
- 腸閉塞
- イレウス
- 不妊症
- 月経異常など
最近では癒着を防ぐ処置がされるケースも見受けられますが、医療機関によって対応は異なるため、心配な方は、主治医に聞いてみると良いでしょう。
手足の痺れ
帝王切開は局所麻酔と全身麻酔により麻酔を行いますが、手足の痺れは局所麻酔による帝王切開時にみられる後遺症です。おもに、神経が赤ちゃんの頭と骨盤の間で圧迫されることや麻酔の投与時に神経が傷ついてしまうことが原因として考えられています。
手足の痺れは数日で改善するケースがほとんどですが、数週間〜数ヶ月経っても改善されない場合もあります。改善がみられない場合には、医療機関へ相談をすると安心です。
頭痛
頭痛も帝王切開後の後遺症の1つといわれています。ストレスや睡眠不足による頭痛がみられる方がいますが、まれに硬膜穿刺後頭痛であるケースも見受けられます。硬膜穿刺後頭痛は、帝王切開の麻酔方法の1つである硬膜外麻酔を行った際にみられる後遺症です。
硬膜外麻酔は硬膜と脊柱管の間にある硬膜外腔に麻酔を投与する方法で、背中から1mmほどのチューブを挿入して麻酔薬を注入しますが、チューブを挿入する際に硬膜を傷つけたり脊髄くも膜下腔に針を指したりすることで頭痛が生じます。
硬膜穿刺後頭痛は産後2日目まで発症するケースが多く、起立時に痛みが増し、安静にすると軽快するのが特徴です。安静にしたり痛み止めを飲んだりしても症状が軽くならない場合には、主治医に相談しましょう。
重い生理痛・ズキズキする下腹部痛
帝王切開の後遺症の1つに、子宮内膜の組織が子宮や卵巣以外で増殖する異所性内膜症という疾患があります。重い生理痛と例えられることが多く、ズキズキする下腹部痛がみられるのが特徴です。そのほかにも、腰痛や瘢痕部・腹部などにコブのようなできものがみられます。
月経がくるごとに軽快するケースも多いですが、コブのようなできものがみられた場合には、早めに産婦人科を受診しましょう。
不正出血や月経日数の超過
帝王切開後に不正出血や月経日数の超過などがみられた場合には、帝王切開瘢痕症候群(ていおうせっかいはんこんしょうこうぐん)の可能性があります。帝王切開瘢痕症候群は、切開した子宮の傷口がうまくくっつかず、子宮内に月経血などが溜まることで生じます。不正出血や月経異常などがみられますが、月経終了後に茶色のおりものが終日〜数週間続くのが特徴です。
現段階で原因ははっきりと解明されていませんが、発生頻度が高いといわれています。月経終了後に茶色のおりものがみられた場合には、速やかに産婦人科を受診しましょう。
帝王切開で起こりうる合併症
帝王切開後に起こりうる合併症は、以下のとおりです。
疾患名 | 詳細 | 症状 |
局所性妊娠(帝王切開瘢痕部妊娠) | 帝王切開の傷あと部分に受精卵が着床することにより生じる | ・軽い下腹部痛 ・少量の性器出血 ・骨盤の痛み ・月経不順 ・軽い下腹部痛 ・少量の性器出血 ・骨盤の痛み ・月経不順 |
前置胎盤 | 子宮口に近い部分に受精卵が着床して生じる胎盤が子宮口に近い部分に位置していたり子宮口を覆っていたりする | ・腹痛を伴わない突然の性器出血 |
癒着胎盤 | 胎盤が子宮にくっついていて、剥がれにくい状態分娩後に大量出血を引き起こすことがある | ー |
子宮破裂 | 妊娠末期に生じる子宮の自然な裂傷稀な疾患だが、分娩中に発症することが多い | ・性器出血 ・激しい腹痛 ・筋性防御(腹部を触ると腹壁が硬くなる) ・反跳痛(腹部を押して手を離す際に痛みが出現する) |
肺血栓塞栓症 | 血液の塊が肺の血管に詰まることで生じる | ・突然の呼吸困難 ・胸痛 ・意識の消失 ・冷や汗 ・動悸 ・背中の痛み ・咳 ・血痰(血液が混ざった痰) ・発熱 |
深部静脈血栓症 | 足から肺に血液を送る静脈に血液の塊が詰まることで生じる | ・腫れ ・痛み ・ほてり ・しびれ ・むくみ ・違和感 |
帝王切開では肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症の発症率が、経膣分娩の7倍〜10倍といわれています。そのため、術後に血栓予防の注射をしたり、弾性ストッキングを着用したりします。医療機関によっては、マッサージポンプを装着するところもあります。
まとめ
帝王切開の後遺症として傷あとのほか、切開した部分の炎症・手術した部位の癒着・手足の痺れ・頭痛・重い生理痛・ズキズキする下腹部痛・不正出血や月経日数の超過が挙げられます。不安な症状がみられた場合には、1人で悩まずに医師へ相談するようにしましょう。
帝王切開後の後遺症のなかで、傷あとについて悩んでいる方が多くいます。生後3ヶ月〜6ヶ月目までは傷あとテープを活用し、下着やボトムスが切開部分に当たらないようにしましょう。6ヶ月目以降は、しっかりと保湿をすることで、乾燥によるかゆみを防げます。産後1年ほどケアをしても改善しない・傷あとを目立たなくしたいという方は、形成外科や皮膚科などを受診して相談してみてください。