「無痛分娩のリスクを知りたい」「無痛分娩の事故が起こる原因はなにか知りたい」と、無痛分娩を検討している方もいるのではないでしょうか?
無痛分娩は、年々増加傾向にある一方、事故や死亡事故が何件か報告されています。そんななか、安心して無痛分娩を行いたいと感じる妊婦も多いでしょう。
そこで本記事では、無痛分娩による事故率と合併症のリスクについて解説します。また、安全に出産するための対策について紹介します。「無痛分娩を検討している」という方は、ぜひ参考にしてください。
無痛分娩による事故率とは?死亡事故件数と原因
無痛分娩の割合は、2008年以降から増加傾向にあります。
以下の表をご覧ください。
2010年から2016年の間に、妊娠中から産後1年以内に亡くなった死亡事故の件数は271件であり、事故率は94.8%でした。一方、そのなかで無痛分娩を行って死亡してしまった死亡事故の件数は14件で、事故率は5.2%でした。
無痛分娩の事故で亡くなった妊婦の死亡原因は、以下の2通りあります。
- 羊水塞栓症(ようすいそくせんしょう)・子宮破裂・産道裂傷・感染症:13件
- 局所麻酔薬中毒:1件
羊水塞栓症や子宮破裂などは、無痛分娩を行っていなくても現れた事故が原因と報告されています。
無痛分娩事故や合併症の4つのリスク
無痛分娩には、さまざまな事故や合併症のリスクがあります。
- 低血圧や発熱などの一時的な症状
- 出産時に気付くのが遅れた異常の変化
- 分娩時間が長くなり吸引や鉗子分娩の切り替え
- 後遺症や死亡事故を引き起こす合併症4つ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
低血圧や発熱などの一時的な症状
無痛分娩事故に見られるおもな一時的な症状は、以下のとおりです。
症状 | 概要 |
頭痛 | 麻酔の針で硬膜(※)が傷つくことで起こる (※)硬膜とは、頭蓋骨の内側にある脳を包む膜 |
発熱 | 6時間以上経過すると、38℃以上の熱が出る |
腰痛 | 麻酔の針を刺したことで起こる |
低血圧 | 軽く血圧が下がる |
かゆみ | 麻酔による作用で、我慢できる程度のかゆみがある |
排尿障害 | ・尿が出にくくなったり、出なくなったりする・出産時に赤ちゃんの頭が母体の膀胱を圧迫しているのが原因である |
下肢の神経障害 | ・出産時の特殊な姿勢や赤ちゃんの頭による圧迫が原因である・足のしびれや感覚麻痺が残る |
それぞれ、無痛分娩時に良く起こる症状であるため問題はありませんが、症状が長引く場合は医師に相談しましょう。
出産時に気付くのが遅れた異常の変化
出産時に異常な症状が起こり、発見が遅れる可能性があるでしょう。自然分娩の場合は、子宮破裂のように子宮の痛みが原因で発見されます。
しかし無痛分娩になると、麻酔薬を投与しているため痛みの感知力が劣ってしまうため、危険な状況に気づきにくいです。
痛みの発見が遅くなってしまい対応が遅れることで、母子ともに命の危険が及ぶでしょう。出産時は、医師や助産師が母親と赤ちゃんの状態をしっかり観察しておくことが大切です。
分娩時間が長くなり吸引や鉗子分娩の切り替え
無痛分娩は、分娩時間が長くなってしまうことで、吸引分娩や鉗子分娩に切り替えられる可能性が高いでしょう。自然分娩の場合は、母親が陣痛時にいきむことで赤ちゃんを生み出しますが、無痛分娩は上手くいきむのが難しくなるため、促進剤を使って出産をさせる必要があります。
しかし、無痛分娩の場合は、陣痛を弱らせるための麻酔を使用するため、いきむコントロールができません。普段の力以上を発揮しにくく、分娩が遅れてしまうのです。
母親の体力や分娩時間が、自然分娩よりも長くなってしまうリスクがある場合は、吸引や鉗子分娩に切り替える可能性が高いです。
後遺症や死亡事故を引き起こす合併症4つ
無痛分娩をする際は、後遺症になってしまったり、死亡事故を引き起こしてしまったりする合併症が4つあります。
- 局所麻酔薬中毒
- 全脊髄くも膜麻酔による呼吸停止
- 薬剤アレルギー神経障害
- アナフィラキシーショック
おもに引き起こされるそれぞれの合併症について、詳しく解説していきます。
1.局所麻酔薬中毒
局所麻酔薬中毒は、麻酔薬の大量投与や血管内の投与によって血液中の濃度が高くなることで引き起こされる症状です。
見られる症状として、以下のとおりがあります。
- 舌・唇のしびれ
- めまい
- けいれん
- 耳鳴り
- 不整脈など
症状が悪化したら、速やかに局所麻酔薬の投与を中止しましょう。
2.全脊髄くも膜麻酔による呼吸停止
「全脊髄くも膜麻酔」により、呼吸が停止してしまう事故は、麻酔薬を投与する際に注入、または迷入することで引き起こされます。
局所麻酔薬を使用すると、足が急に動かなくなったり、腕がしびれたりなどの症状が現れます。重症になると呼吸ができなくなるような息苦しさを感じられるでしょう。
3.薬剤アレルギー神経障害
薬剤アレルギー神経障害は、母親が出産後に見られる症状です。
麻酔薬に対するアレルギーが原因で引き起こされます。また、赤ちゃんの頭と母親の骨盤の間の神経が圧迫される場合や、出産時の体勢が原因で引き起こされる場合もあります。
4.アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックは、体内に投与した麻酔薬によって過剰反応を起こしてしまう症状です。
アナフィラキシーショックのおもな症状は、以下のとおりです。
- 息苦しさ
- めまい
- 下痢
- 嘔吐など
薬剤に対してアレルギーがある場合は、医師に相談をしましょう。
無痛分娩事故を起こさないための対策を3つ
無痛分娩事故を引き起こさないために、次の3つのことを対策しましょう。
- 無痛分娩が整った安全な施設で行う
- 健康管理を十分に行う
- 無痛分娩関係学会や団体協議会(JALA)が認定している
それぞれ詳しくみていきましょう。
無痛分娩が整った安全な施設で行う
無痛分娩が整った安全な施設で分娩を行い、事故を起こさないようにしましょう。
「無痛分娩が整った施設」とは、公式ホームページで以下の条件が揃っているところを指します。
- 無痛分娩を積極的に行っている
- 無痛分娩について詳しいマニュアルが作成されている
- 無痛分娩の実施数が十分にある
- 無痛分娩の成功率が高い
- 十分な医療スタッフと麻酔の担当者が在籍している
- 事故が起こった場合の準備を備えている
- 評判や口コミが良い
無痛分娩を行う際は、施設選びが最も重要です。さまざまな情報を調べたうえで、安全な施設を決めましょう。
健康管理を十分に行う
健康管理を十分に行い、無痛分娩の事故を起こさないように対策しましょう。
妊娠中の健康管理に気をつけていれば、出産事故に遭う危険性が低くなります。そのため、食事や運動など医師からのアドバイスをきちんと守った日常生活を送りましょう。
無痛分娩関係学会や団体協議会(JALA)が認定している
無痛分娩事故を起こさないためには、無痛分娩関係学会や団体協議会(JALA)が認定している施設を検討しましょう。
全国では、無痛分娩の施設を検索できる「JALA」があります。
「JALA」では、以下の情報が確認できます。
- 産婦人科医師
- 麻酔科医の人数
- 分娩取扱の実績
- 無痛分娩に関する対応方針とマニュアル等の整備状況など
県によって、無痛分娩を取り扱っていない施設もあります。出産する県内に無痛分娩が行える施設があるか確認してみてください。
まとめ
今回は、無痛分娩による事故率と合併症のリスクについてと、安全に出産するための対策について解説してきました。
無痛分娩の死亡事故率は、5.2%(14件)でした。そのなかで13件は、羊水塞栓症や子宮破裂などであり、1件は局所麻酔薬中毒麻酔による原因です。
無痛分娩の事故は、麻酔薬によって引き起こされる原因が多く、一時的に現れる症状から、重症になる症状まで幅広いです。そのため、安全に無痛分娩を行う際は、施設選びが重要になります。
無痛分娩の事故のリスクを減らすために、正しい知識を身に付け、安心した気持ちで出産を迎えましょう。