出産を控えている方の中には「無痛分娩中に帝王切開になるケースはある?」「帝王切開になった際の費用や保険が心配」という方もいるでしょう。実際に、無痛分娩中に帝王切開となるケースも見受けられます。
この記事では、無痛分娩中の帝王切開率や帝王切開が必要となるケース、麻酔やリスクについて解説します。費用や保険についても紹介するので、出産の不安軽減に役立ててください。
無痛分娩と自然分娩では帝王切開になる確率に違いがある?
一般的に、無痛分娩と自然分娩では帝王切開になる確率に違いはないといわれています。日本産婦人科医会による調査結果は、以下のとおりです。
病院と診療所それぞれ、無痛分娩の実施有無によって帝王切開率に違いがないことがわかります。そのため、自然分娩でも無痛分娩でも帝王切開になる可能性があるといえるでしょう。
無痛分娩中に帝王切開となるケース
無痛分娩中に赤ちゃんや母体に危険が差し迫っている・経膣分娩が難しいと判断された場合に、帝王切開となるケースが多く見受けられます。無痛分娩時に帝王切開が必要となる可能性が高いのは、以下のケースです。
- 胎児機能不全
- 回旋異常
- 常位胎盤早期剥離
- 妊娠高血圧症候群
- 微弱陣痛
- 遷延分娩
それぞれ詳しく解説します。
胎児機能不全
胎児機能不全は、臍の緒が圧迫されたり、胎盤機能が低下したりなどの理由で、赤ちゃんに酸素が十分に届いていない状態を指します。
お産が進んでおり、赤ちゃんが産道の出口付近まで出てきている場合には、鉗子分娩や吸引分娩となるケースも見受けられますが、緊急度が高い場合は帝王切開となる可能性が高いでしょう。
回旋異常
回旋異常とは、赤ちゃんが上手く身体の向きを変えられず、分娩が進まなくなることです。
赤ちゃんは分娩時、母体の骨盤の形に合わせて体の向きを何度も変えながら骨盤内を下降していきますが、何らかの理由で向きを変えられなくなるケースが見受けられます。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離とは、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれることです。胎盤が剥がれると、赤ちゃんに酸素が届きにくくなるうえ、心拍数低下や子宮内への大量出血が見られます。
母子ともに危険な状態となる可能性が高いことから、帝王切開となることが多いです。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、高血圧や尿蛋白が見られる疾患です。
血圧が160mmHg以上/110mmHg以上、蛋白尿が2g/日以上の場合や母子ともに危険な状態と判断された場合に、帝王切開となる可能性があります。
微弱陣痛
微弱陣痛とは本陣痛が見られたにもかかわらず、分娩が進まない状態を指します。
陣痛促進剤を使用しても陣痛が弱い・陣痛の持続時間が短い・陣痛の間隔が長いなどの症状が見られた場合は、帝王切開が第一選択肢となることがあります。
遷延分娩
遷延分娩とは本陣痛が見られるものの、長時間経過しても赤ちゃんが出てこない状態を指します。
子宮口が硬く、十分に開かない場合や、胎児が大きすぎる場合など、経膣分娩が難しいと判断された場合に帝王切開になるケースが見受けられます。
帝王切開の麻酔方法と麻酔と副作用
帝王切開の麻酔は、意識がある状態で赤ちゃんを摘出する局所麻酔と、意識がない状態で手術を行う全身麻酔に分けられます。
ここからは、局所麻酔と全身麻酔の違い、それぞれの副作用について解説します。
局所麻酔と全身麻酔の違い
局所麻酔と全身麻酔の違いは、以下のとおりです。
局所麻酔 | 全身麻酔 | |
特徴 | 背中から針を刺して脊髄くも膜下腔や硬膜外腔に麻酔薬を投与する | 麻酔薬を静脈から点滴する |
母体への影響 | 意識がはっきりしている | 眠るため呼吸の管理が必要 |
赤ちゃんへの影響 | ほとんど無し | 眠くなったり、脈が弱くなったりする可能性がある |
麻酔が効くまでの時間 | 比較的短い | とても短い |
以下のケースでは、局所麻酔ではなく全身麻酔による帝王切開が行われるケースが多く見受けられます。
- 母体の血液が固まりにくい場合
- 大量出血や著しい脱水が見られる場合
- 背骨が変形している場合
- 背中の神経に関する疾患を患っている場合
- 高熱が出ている場合
局所麻酔よりも全身麻酔の方が麻酔の効きが早いことから、急いで帝王切開を行わなければならない場合に、全身麻酔が選択されることがあります。硬膜外麻酔により局所麻酔をしている方は、薬剤を追加で投与することで、帝王切開に移行できる可能性があります。
万が一、麻酔の効きが悪い場合には、麻酔薬を追加で投与したり、全身麻酔を行ったりしてもらえるため、医師に確認しておくと良いでしょう。
局所麻酔の副作用
局所麻酔の副作用として、以下のものが挙げられます。
- 足の痺れや違和感
- 嘔気・嘔吐
- 頭痛
- 発熱
稀に、麻酔薬を投与した部分に血液や膿が溜まり、神経を圧迫することがあります。
全身麻酔の副作用
全身麻酔の副作用として、母体の肺炎と赤ちゃんの眠気・徐脈が挙げられます。全身麻酔は眠っており意識がない状態のため、意識のないときに嘔吐し、吐物が肺に入り込み、肺炎を起こすことがあります。
麻酔の担当医により、胃の内容物を少なくする働きが期待できる薬を使うケースも見受けられるため、心配な方は前もって医師に確認しておくと良いでしょう。
また、全身麻酔は麻酔薬を静脈から投与するため、胎盤を通して赤ちゃんにも届くといわれているため、赤ちゃんが眠くなったり、脈が弱くなったりする可能性があります。これらの症状は、麻酔薬の影響がなくなれば落ち着くといわれていますが、呼吸の補助が必要となるケースも見受けられます。
帝王切開のリスク
帝王切開は、無痛分娩よりも深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を発症するリスクが高いといわれており、術後に血栓予防のための弾性ストッキングを数日間装着するケースが多く見受けられます。
また、切開部の痛みが生じたり、瘢痕やケロイドが発生したりする可能性もあります。
帝王切開の費用と保険について
最後に、無痛分娩中の帝王切開の費用と保険適応の有無について解説します。
帝王切開の保険適応の有無
無痛分娩は自然分娩と同様に、公的な医療保険の適応外です。一方で、帝王切開は医療行為に該当するため、公的な医療保険が適応できます。
しかし、退院までの費用全てが医療保険の適応となるわけではなく、個室や少人数部屋を希望した場合の差額ベッド代や食事代などは全額自己負担となるため注意が必要です。
帝王切開の費用
帝王切開の費用は診療報酬により点数が定められており、予定帝王切開の場合は201,400円、緊急帝王切開は222,000円です。無痛分娩中の帝王切開は、緊急帝王切開となるケースが多いでしょう。
次に、施設ごとの出産費用と分娩方法ごとの出産費用の目安を紹介します。
厚生労働省によると、帝王切開を含む異常分娩は、50万円ほどが出産の目安となります。しかし、無痛分娩から帝王切開に移行した場合は、無痛分娩代が別途加算されるケースもあります。
出産費用は施設によって異なるため、前もって確認しておくと良いでしょう。
まとめ
無痛分娩も自然分娩も帝王切開になる確率には、違いがないといわれています。胎児機能不全のほか、回旋異常・常位胎盤早期剥離・微弱陣痛など、母子に危険が差し迫っていると判断された場合は、無痛分娩中に帝王切開となる可能性が高いでしょう。
帝王切開の費用は公的な医療保険の適応となるため、全国一律で決められていますが、別途無痛分娩代が加算される可能性もあります。費用が心配な方は、前もって出産する予定の病院に確認しておくと安心です。