母子手帳の「妊娠中の経過」部分に記載されている項目の1つが尿蛋白です。妊婦健診時に「毎回、尿蛋白がプラスなのはなぜ?」「血圧は低いのにもかかわらず、尿蛋白がプラスマイナスになっていて心配」と疑問や不安を抱えている方もいるでしょう。
妊娠中は尿蛋白が出やすいといわれていますが、妊娠高血圧症候群の兆候として現れることがあるため、食事や睡眠などの妊娠中の過ごし方に注意が必要です。
この記事では、尿蛋白の基準値やプラスになる原因・プラスになったら気をつけることなどを解説します。最後によくある質問も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
尿蛋白とは?
尿蛋白とは、尿の中に通常より多くのタンパク質が含まれている状態のことです。腎臓は血液をろ過する際に、体に必要な成分であるタンパク質を再吸収し、不要な老廃物だけを尿として排出します。
何らかの理由で腎臓の機能が低下すると、タンパク質が尿中に漏れ出し、尿蛋白として検出されることがあります。尿蛋白は妊娠高血圧症候群や腎疾患の兆候として現れるため、妊婦健診時に毎回検査をするのが一般的です。
妊娠中における尿蛋白の判定基準
尿蛋白の判定基準は、以下のとおりです。
濃度(尿1dlあたり) | 判定 |
15mg/dl以下 | - |
15mg/dl以上〜 30mg/dl未満 | ± |
30mg/dl以上〜 | +/1+/プラス1 |
100mg/dl | ++/2+/プラス2 |
日本腎臓学会では、+(プラス1)以上を陽性としています。±(プラスマイナス)は、陽性の判定は出ないものの、尿中にタンパク尿が確認されている「弱陽性」の状態です。妊婦健診では、2回以上連続して+判定が出た場合に陽性となり、1度でも2+の判定が出た場合は陽性と判定されます。
なお、母子手帳の尿蛋白の欄は「-」「+」「++」の3つに分かれており、「-」は尿にタンパク質が混じっていない状態を指します。「+」と「++」は、尿にタンパク質が含まれていることを示しており、タンパク質の濃度が高ければ高いほど「+」の数が多くなります。
妊婦健診で尿蛋白がプラスになる原因
妊娠中の尿蛋白の原因として、以下のものが考えられます。
- 循環血液量の増加
- 赤ちゃんの老廃物による負担の増加
- ストレス
- 感染症
- 睡眠不足
- 疲労
- 水分不足など
循環血液量の増加は、腎臓で処理する老廃物が増えることで負担が増加し、一時的に尿蛋白が陽性となることがあります。
さらに、妊娠中期以降は、赤ちゃんが尿を排泄するようになるため、蛋白尿が出る可能性が高まります。赤ちゃんが排泄した尿は、胎盤から母体の血中に取り込まれ、母体の腎臓を通して体外に排泄されるのが特徴です。
母体だけではなく赤ちゃんの老廃物も処理するようになると、尿蛋白が確認されるといわれています。
尿蛋白は偽陽性となることもある
妊婦さんのなかには、尿蛋白が偽陽性である方も見受けられます。偽陽性とは、陰性であるにもかかわらず、陽性と判定されることです。水分不足で尿が濃縮したり、おりものが混ざったりすると、尿蛋白が陽性と出る可能性もあります。
適宜水分を摂り、尿検査の前には、おりものを拭くことで、正確な判定が出るでしょう。
妊婦検診で尿蛋白がプラスになったら気をつけること
尿蛋白がプラスの判定が出た方は、食生活や体重・水分の摂取などに気を付ける必要があります。以下の4つを意識して、過ごすことが重要です。
- 塩分や糖分を摂り過ぎない
- 適宜水分を摂取する
- 体重管理をする
- 十分に休息を取る
食生活については、塩分を6.0g/日未満に抑えるようにしましょう。また、高血糖も腎臓に負担がかかるため、甘いお菓子や高カロリーなものは避けると安心です。水分については、2.5L/日を意識し、こまめに摂取するのがおすすめです。
また、肥満により、尿蛋白が出ることもあるといわれているため、妊娠中は適切な体重増加量を意識しましょう。妊娠中の体重増加量の目安は、以下のとおりです。
妊娠前の体重 | BMI(※) | 妊娠中の体重増加量の目安 |
痩せ型 | 18.5未満 | 12㎏~15㎏ |
普通 | 18.5以上〜25未満 | 10㎏~13㎏ |
Ⅰ度の肥満 | 25以上〜30未満 | 7㎏~10㎏ |
Ⅱ度の肥満 | 30以上 | 個別対応(上限5㎏までが目安) |
急激な体重増加や減量は赤ちゃんに負担がかかるため、上記の目安をもとに体重管理をすることが大切です。万が一、体重増加量の目安を超えた場合でも、無理なダイエットは禁物です。
また、ストレスや疲労も尿蛋白の原因となるため、疲れを感じたときは休息を取り、しっかりと睡眠時間も確保しましょう。
妊娠検診時の尿蛋白に関するよくある質問
最後に、妊娠検診での尿蛋白に関するよくある質問を6つ紹介します。
尿に白いふわふわの浮遊物が混ざっています。尿蛋白ですか?
尿にふわふわした白い綿のような浮遊物が混ざっている場合は、おりものが混ざっていたり、炎症が起きていたりする可能性が考えられます。
妊娠中は女性ホルモンの影響で、おりものが増える傾向にあります。とくに、妊娠初期には白いおりものが出ることがあり、尿と混ざると白い浮遊物のようにみえる可能性もあるでしょう。
また、以下の疾患は、炎症により尿に白い浮遊物が混ざることがあります。
- 膀胱炎
- 尿道炎
- 腎盂腎炎
- 腎臓結石
- 尿管結石
- クラミジア感染症
白い浮遊物が1週間以上、尿に混ざっている場合は、炎症している可能性があるため医療機関を受診すると安心です。
尿蛋白と尿糖の違いは何ですか?
尿蛋白と尿糖は、尿に含まれる成分に違いがあります。尿蛋白はタンパク質が混じっており、尿糖は糖分が混じっている状態です。
尿蛋白は腎機能の低下や妊娠高血圧症候群の可能性を示唆する症状ですが、尿糖は妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠が疑われる状態です。
妊婦さんの尿蛋白はケトン体が原因ですか?
尿蛋白はタンパク質が尿中に排泄されるのが原因です。通常、尿を作り出す際に、タンパク質は血中に吸収されますが、何らかの原因により、吸収されずに尿中にタンパク質が混じると尿蛋白が陽性となります。そのため、尿蛋白の原因は、ケトン体ではないといえるでしょう。
尿中にケトン体が確認されるのは、栄養が足りていない状態を示唆しています。つわりなどで十分に食事が取れない場合に、体の中に貯蔵してあった脂肪を燃焼して糖分を作り出します。脂肪を分解する際に、ケトン体が体内で作られ、尿中に混じることがあるといわれています。
妊婦健診時の尿蛋白は水分不足が原因ですか?
体の水分が不足しているときにも、尿蛋白が出ることがあるといわれています。水分が不足すると尿が濃くなるため、一時的に尿蛋白となる可能性があります。
ただし、水分を摂りすぎると、腎臓に負担がかかるため、少量ずつこまめに飲むのが良いでしょう。
尿蛋白がプラスで血圧が高いと妊娠高血圧症候群と診断されますか?
日本産婦科婦人科学会によると、妊娠中に尿蛋白がプラスで以下に該当する方は、妊娠高血圧症候群と診断されます。
- 1日に排泄した尿の中にタンパク質が300mg認められる
- 収縮期血圧が140mmHg以上もしくは拡張期血圧が90mmHg以上
妊娠高血圧症候群は、妊婦さんの20人に1人の割合でみられる疾患といわれています。重症の方は高血圧と蛋白尿の他に、けいれん発作や脳出血・肝・腎臓の機能障害、HELLP症候群などを引き起こす可能性があるため注意が必要です。
血圧が低い場合でも尿蛋白がプラスなら妊娠高血圧症候群と診断されますか?
尿蛋白がプラスでも、血圧が低い場合は、妊娠高血圧症候群と診断される可能性は低いでしょう。ただし、今後高血圧になると、妊娠高血圧症候群と診断される可能性もあるため、塩分の過剰摂取や水分不足などに注意が必要です。
まとめ
尿蛋白は腎臓の機能が低下し、本来尿に含まれないはずのタンパク質が尿中に漏れ出すことを指します。尿蛋白は、妊娠高血圧症候群や腎疾患の兆候として現れるため、妊婦健診時に毎回検査をするのが一般的です。
1dlの尿中に15mg/dl以上のタンパク質が認められた場合に、尿蛋白と判定されます。母子手帳の尿蛋白の欄は「-」「+」「++」の3つに分かれていますが、タンパク質の濃度が高ければ高いほど「+」の数が多くなるのが特徴です。
尿蛋白はストレスのほか、疲労・循環血液量の増加・赤ちゃんの老廃物による負担の増加・感染症などが原因と考えられています。
尿蛋白が陽性となった場合は、塩分を6.0g/日未満に抑えつつ、水分を適宜摂取したり体重管理をしたりするようにしましょう。